[ITmedia ビジネスオンライン] テレワーク中の労務トラブルQ&A 「常時カメラをON」はプライバシー侵害?

3月 19, 2021
Category: お知らせ


 テレワークを導入している企業が増えているものの、その運用がうまくいかず、不具合やトラブルが生じているケースもあります。ここでは、労務関係におけるトラブルの解決法を紹介します。

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 本記事は、2021年3月号に掲載された「テレワーク中の労務トラブルQ&A」を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集し、転載したものです。

テレワーク導入が従業員と会社に与えた影響

 政府は、2016年7月より、テレワーク推進を強化してきました。総務省と厚生労働省は、テレワーク実施のためのガイドラインを作成しています。テレワークのメリットは次の通りです。

(1)従業員にとってのメリット

  • 通勤時間の短縮、通勤に伴う精神的・身体的負担の軽減
  • 業務効率化、時間外労働の削減
  • 育児や介護と仕事を両立させる一助となる
  • 仕事と生活の調和を図ることが可能

(2)会社にとってのメリット

  • 業務効率化による生産性の向上
  • 育児・介護等を理由とした従業員の離職の防止
  • 遠隔地の優秀な人材の確保
  • オフィスコストの削減

 このようにメリットが多いテレワークは、労使ともにうまく活用していきたいところです。

 しかし、準備不足で開始したことや、慣れないなかでの運用によってトラブルも起きています。また、労使ともにデメリットを感じている人もいます。従業員は、約7割が、何らかの問題があったと回答しています(図表1)。

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 会社は、従業員よりもデメリットを感じている割合が多い結果になっていますが、これは、上司が部下から受けた相談や、人事が直面したトラブルが多かったことを示していると考えられます。

 ここからは、テレワークの導入により起こりやすい労務トラブルについて解説します。

【Q】

 業務管理のために、上司から常時カメラをONにするよう求められました。プライバシーの侵害になりませんか。



【A】

 テレワークは、部下の仕事の様子が分かりにくいため、必要以上に業務報告を求めたり、テレビカメラを終日ONにさせたがる上司もいるようです。

 しかし、自宅でカメラを使用する場合は、プライバシーへの配慮が必要となります。常時カメラをONにすれば、家のなかでの会話や生活音なども聞こえてしまいます。また、室内の様子が映っている際に、趣味のポスターや置物について茶化すような発言をすればハラスメントにもなり得ます。

 会社が従業員を管理する際に、「監視する」という考え方でいると、労使トラブルが発生しやすくなります。業務の進行を管理するなら、チャットなどのツールを使うことでも事足りるはずです。

 また、上司への報告や、ミーティングが頻繁にあると、従業員が本来行うべき業務が滞ってしまい、結果的に生産性を低下させてしまいます。

 テレワークで従業員の仕事ぶりを評価する際には、プロセスよりも結果を重視しましょう。そうすれば、従業員の仕事ぶりを監視する必要もなくなるはずです。

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写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

【Q】

 業務時間中に中抜けをする従業員をどのように管理すればよいですか。

【A】

 テレワークでは、プライベートな理由による中抜け時間が発生しやすくなります。

 日本の会社では、基本的に勤務時間に対して賃金が支払われるため、会社としては「働いている時間」をきちんと把握したいのは当然でしょう。

 しかし、ある程度の中抜けは許容して、従業員の自主性に任せたほうが生産性はかえって高まるものです。

 また、育児や介護を理由とした従業員の退職を未然に防ぐことにもつながるので会社にとってもメリットは大きいはずです。

 もちろん、ショッピングやゲームといった「サボり」は論外ですので、中抜け時間が長いとみられる従業員には、勤務状況を監視するのではなく、業務の進行を管理することで、生産性を下げないようにさせるとよいでしょう。

 また、育児や介護といった理由でまとまった時間の中抜けが必要な従業員がいる場合は、勤怠管理ソフトなどを使って、所定労働時間中に業務を中断できるようにしてもよいでしょう。

 なお、従業員が途中で中抜けを1時間申請した場合、終業時刻をその分繰り下げるといった始業・終業時刻の変更が行われる場合には、その旨を就業規則に記載する必要があります。

 また、中抜け時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことも可能です。この場合には、労使協定の締結が必要となります。

【Q】

 テレワークになってから長時間労働になりがちな従業員がいるようです。会社としてどのように対応すべきですか。



【A】

 仕事とプライベートの境目が曖昧になることで、かえって長時間労働をしてしまう従業員もいるようです。

 長時間労働は労働基準法の問題はもちろんのこと、従業員の心身の健康を守るためにも適切な管理が必要となります(図表2)。

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 勤怠管理ソフトなどを使って労働時間を把握し、長時間労働が顕著な従業員には、1日の働き方を確認して、業務の内容や進め方を見直すよう指導します。

 また、テレワークでは自宅から会社のシステムにアクセスして業務を行なうことがあります。深夜や休日には、基本的に会社のシステムにアクセスできない設定にしておくことも、長時間労働の防止に有効です。

【Q】

 テレワークを機にフレックスタイム制の導入を検討しています。どのような点に留意すればよいですか。

【A】

 従業員の都合に合わせて始業・終業の時刻を調整できるフレックスタイム制はテレワークと相性がよく、導入する会社が増えています。

 フレックスタイム制の導入に当たっては、次の労働基準法32条の3に基づいた運用が必要です。

  • 就業規則その他これに準ずるものにより、始業および終業の時刻をその従業員の決定に委ねる旨を定める
  • 労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定める

 また、フレックスタイム制は、時間外労働が把握しにくい分、労働時間をしっかり管理する必要があります。

【Q】

 テレワークを機に、事業場外みなし労働時間制を導入すれば、残業代の支給は不要ですか。



【A】

 事業場外みなし労働時間制を採用していても、法定労働時間を超えて労働した場合には、残業代の支払いが必要となります。

 休日や深夜労働の割増賃金も発生しますので、トラブルを避けるために、これらは原則禁止とするか、事前申請を義務とするよう就業規則に規定しておきましょう。

 また、事業場外みなし労働時間制を導入するには、次の要件が必要となります。

  • 会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であること
  • 情報通信機器を通じた、会社の指示に即応する義務がない状態であること
  • 随時会社の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 テレワークであっても、自宅勤務などでオフィスにいるときと同じように労働時間が算定できる場合には、事業場外みなし労働時間制が採用できないので注意が必要です。

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写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

【Q】

 テレワークによるメンタル不調に悩む従業員にはどう対応すればよいですか。

【A】

 テレワークは、ある程度経験がある従業員に限定している会社もありますが、全員一律にしている会社では、新卒で入社した新入社員がメンタル不調に陥るケースが多いようです。

 これは、近くに同僚や先輩がいないため気軽に質問や相談ができず、1人で悩みを抱え込みやすいことが原因と考えらえます。

 オンライン会議などを使って、悩みを打ち明けられる環境を整える会社もありますが、実際に会っていない人に、カメラに向かって相談はしにくいものです。

 孤独感による鬱を抱える従業員も増えています。実際に会える場所を提供することも必要です。

 しかし、定期的に集まることを強制参加とすることは望ましくありません。なかには、顔を合わせないことで働きやすさを感じている従業員もいるためです。

 絶対にこうしなければならない、という画一的な考え方ではなく、それぞれの従業員の性格に合わせて働きやすい環境を整える必要があります。

 なお、労働安全衛生法上の観点からも、会社は労働者の健康確保の措置を講じる義務があるとされています(図表3)。

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【Q】

 直接雇用の従業員がテレワークをしていても、派遣社員だけテレワークが許可されません。これは、法違反ではありませんか。



【A】

 派遣元の会社との雇用契約に、テレワークが含まれていない場合には、派遣先の会社で直接雇用の従業員がテレワークをしていても、派遣社員は出社しなければなりません。

 これは、派遣元の会社との契約の問題になるため、派遣先の会社対応は法違反になりません。

 しかし、テレワークを派遣社員だけ除外することは、不公平感による労働意欲の低下など、派遣先の会社にとってもデメリットが生じます。契約のために労使ともに業務が進めにくくなっては本末転倒ですので、柔軟な対応が求められます。

 派遣先の会社では、派遣社員と派遣元の契約を変更する権利がありませんので、派遣社員の要望を派遣元に伝え、派遣元と派遣社員の間で契約内容を変更してもらうようにしましょう。

 契約は、労使お互いの合意があれば変更は可能です。これは、不利益変更であっても可能ですが、安易な不利益変更は、労使トラブルの元になりますので注意が必要です。

 もちろん、テレワークでの働き方を労働契約に含めることは不利益変更には当たらないので、積極的に行うとよいでしょう。

テレワークの一番の課題は従業員のメンタル

 最後に、テレワークに関する相談を受けている立場から、テレワーク導入に当たって気を付けるべき点を挙げてみたいと思います。

 制度やセキュリティに関することなど、物理的、人的に解決できることは、運用しながら適宜改善していけば、大きな問題に発展することはそれほどありません。

 それよりも注意しておきたいのは、メンタルの問題です。

 テレワークのおかげで、快適に仕事ができるようになったという人もいますが、お互いが顔を合わせる機会が減ることは、従業員の体調不良や悩みに気付きにくくなる一方で、見えにくいところでのハラスメントが発生しやすいといった弊害もあるのです。

 また、社内チャットなどでコミュニケーションを取る会社もありますが、文章だけでは誤解を招きやすいものです。

 テレワークによる労務トラブルは、直接会話をせずに、メールやチャットなどでのやりとりから始まっているケースも多くあります。便利なツールに頼りすぎるのも問題でしょう。

 従業員のメンタルに配慮したテレワークができれば、自然と業務の生産性も向上するでしょう。

著者紹介:須田 美貴(すだ・みき)

労働相談須田事務所 特定社会保険労務士・産業カウンセラー

労働問題の解決が専門。解決事例等についてブログ・SNSで発信している。NHK「あさイチ」等テレビ出演。ラジオ「ろうどうステーション」パーソナリティー。


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