[ITmedia ビジネスオンライン] 認知症の金融資産をどう守る? 家族信託をITで民主化するファミトラ

3月 25, 2021
Category: お知らせ


 高齢化が進む日本において、認知症の人が増加している。2012年に462万人だった認知症の人は、25年には700万人前後まで増加すると見込まれる。65歳以上の高齢者の実に5人に一人は何らかの問題を抱えている計算だ。

 他方、家計金融資産のほとんどはシニア層が保有している。1900兆円といわれる家計金融資産の6割以上を60歳以上の世帯が保有していると推定されており、この比率は増加傾向にある。35年には7割を超えると見られる。

 第一生命研究所の試算によると、認知症の人が保有する金融資産額は20年に160兆円、さらに30年には215兆円に達し、個人金融資産の1割以上となる見込みだ。


認知症患者の保有する金融資産額(金融庁)

 こんな中、問題となるのは、認知症によって本人に意思決定能力がないとみなされると、保有する金融資産が実質的に凍結されてしまうことだ。認知症による資産凍結を防ぐための仕組みを、ITを使って提供しているファミトラ(東京都港区)の三橋克仁社長は、この状況を次のように話す。

 「高齢化が進む中で、認知症によって意思決定能力がないとみなされると、あらゆる契約が行えなくなる。例えば不動産を売却して介護資金に充てようと思っていた矢先に、認知症だと認定されると、不動産を売れなくなってしまう。金融機関も、オレオレ詐欺のような特殊詐欺に会わないようにと、善意で口座の凍結処理をかけてしまう。一度こうなってしまうと家族が出向いてもどうにもならない」


ファミトラの三橋克仁社長

 いまや、認知症の人が持つ金融資産にどう対応していくかは、社会的課題になってきているわけだ。



後見人制度の課題

 認知症の人の資産凍結への対処法がなかったわけではない。認知・判断能力が不十分な人を支援する制度として、民法が定める成年後見制度がある。これは、契約ができない本人に代わり代理で契約を行えるようにする仕組みだ。財産管理だけでなく、老人ホームへの入居手続きや身の回りの世話などの身上監護をまるごと任せなければいけない。

 しかし制約も多い。三橋氏は「通帳から印鑑からまるごと預ける感じ。名目上、本人の資産を守るのが後見人の役割としてあるので、被後見人が息子や孫に教育資金をあげようと思っても、『それは被後見人本人のためではない、他人のためですよね』となってしまう」と、課題を指摘する。

 コストも大きい。後見人を選んで指名するのは家庭裁判所だが、ほぼ弁護士が充てがわれる。判断が中心の業務なので多くの時間は使わないが、一般的な場合で月額2万から6万円、資産規模が5000万円以上ともなると月額6万円もの費用が、被後見人の資産から支払われる。

 認知症になって金融機関や司法書士が意思決定能力がないと判断すると、地域包括センターから家族に後見人の勧めが来る。そのまま、後見人の申立を家庭裁判所にしてしまうと、あとは後見人次第だ。どんな人が後見人に選ばれるのかは分からず、一度つけると当人が亡くなるまで、その後見人が継続してしまう。

 家族からすると見ず知らずの弁護士に多額の費用を払った上で、その資産の使いみちについては弁護士の了解がないと使えない状態になるわけだ。

家族に財産を託す「家族信託」

 認知症の人自身にとっても、これは願った状況ではない場合もあるだろう。こうした事態にならないために活用できるものの一つが家族信託と呼ばれるものだ。認知症にかかる前に、現金、不動産、有価証券などを信託財産として、管理、処分する権利を家族に託す仕組みだ。

 家族信託を使うと、本人が認知症になっても、家族が問題なく家を売ったり定期預金を解約したりできる。資産を家族にあげてしまうと贈与になってしまい、贈与税が発生するが、家族信託ならば、財産から生まれる収益は受益権ということで本人に残るので贈与税は発生しない。

 解決策の1つと目される家族信託だが、問題は契約の自由度が高すぎる点にある。「なんでもできてしまう。事業承継もできるし遺言にも使えるし遺産相続にも使える。100点満点の家族信託を作ろうと思うと、いろいろな分野の知識が必要になってしまう」(三橋氏)

 家族信託を取り扱うのは主に司法書士だが、国内2万3000人の司法書士のうち家族信託が設計できるのは「数百人くらいしかいないのではないか」と三橋氏は言う。オーダーメイドで契約を作る仕組みのため、ヒアリングから含めて期間は半年、通常100万円、200万円ほどのコストがかかる。

 公正証書による家族信託の件数は、いまだ年間3000〜5000件程度。累計でも数万のオーダーでしかない。一方で、認知症の人の数は700万人をすぐに超える見込みだ。現時点では、完全な解決策にはなり得ていない。



ITを活用して家族信託を民主化する

 こうした課題をITを活用して解決しようとしているのが、ファミトラだ。何度も何度も家族会議に同席して契約内容を作り上げるオーダーメイド型の家族信託ではなく、顧客情報をヒアリングし、それを元にITを使って信託組成に必要な情報の型化を目指す。

 「最もニーズが大きいのが認知症時の資産凍結。そこにフォーカスすることで、ある程度型化できるのではないか」(三橋氏)


弁護士が信託組成に必要な情報の型化を目指す(ファミトラ)

 現在の仕組みは同社が「第一段階」と呼ぶもので、顧客情報を入力すると自動的にヒアリングすべき項目が表示され、論点が整理される。例えば「配偶者の特別控除」や「小規模宅地の特例」が使えるかもしれないから確認しよう、ということがすぐに分かる。

 今後、ユーザーが自分の情報を入れるだけで、一定のフォーマットが出力される仕組みを目指す。「契約書の元となるドキュメントをほぼ自動的に出力することにトライしている。弁護士と顧客が委任契約を結ぶが、間に入ってヒアリングを行い、弁護士が契約書を作りやすいフォーマットを用意することで、5万円くらいで済ませられるようにする」(三橋氏)

IFAのJAMとも提携

 ある程度の資産を持っている人にとって、自分が認知症になってしまってからでは遅い。意思決定能力を持っているうちに、家族に財産を管理できる仕組みを用意しておきたい。そんな顧客のニーズに応えるため、ファミトラと提携したのがIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)のジャパンアセットマネジメント(東京都千代田区)だ。

 堀江智生社長は「家族信託に注目していたが、コスト面が唯一のデメリット、ネックだった」と話す。同社の顧客の約2割が潜在的に家族信託のニーズがあると見ており、さらに新規顧客の開拓においても家族信託がフックになると見込む。


ジャパンアセットマネジメントの堀江智生社長

 高齢者、また高齢者につきものの認知症への対策は、大手の金融機関や証券会社などでも重要視されてきている。しかし、ITを活用した低価格化という点では、ファミトラのような技術系スタートアップに一日の長がある。法務、税務、ITをつないでシステムで対応するのは簡単ではないからだ。

 100万円以上のコストがかかるのが普通だったことから、大手金融機関が営業対象としてきたのは1億円以上の資産をもつ富裕層だった。三橋氏は、「3000万から1億円あたりの層にまで、家族信託という合理的な仕組みを広げられるのではないか。これまでと比べて対象世帯数が10倍くらいに広がる」と、市場を見積もる。

 「意思能力をほぼ失ってしまった段階で相談に来るケースがある。後見人をつけるしかなく心が痛む。現在コロナ禍で、コミュニケーションを取らないと認知症は加速する。少しでも気になったら、手遅れにならないうちに動いてほしい」(三橋氏)


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